前項に引き続き、谷口恭先生の書いた記事を紹介します。
私が日ごろから疑問に感じていることをドストライクでつづっている存在、これは製薬会社からお金をもらっている大学や大病院の先生では書けない記事ですね。
結論から申し上げると、ADHD治療薬は、「服用直後から意欲がわき、集中力が高まるものの、長期的な学習効果が改善するわけではなく、小児の場合は身長が伸びない」ということになりそうです。
著者はこう結んでいます;
「現在の診断基準でADHDの確定診断ができるのだとしても、必要性が高くないケースでは、ADHD治療薬は使わない方がいいのではないだろうか」
・・・ADHDによる日常生活への影響・支障の程度と、ADHD薬のマイナス面とを専門医がはかりにかけて慎重に投与すべき薬なのですね。
▶ ポイント
・ADHD薬の効果は劇的で、患者自身より保護者の満足度が高い。
・日本で多く処方されているのは「アトモキセチン」と「グアンファシン」…脳内のノルアドレナリンの作用増強
・アメリカで多く処方されているのは「メチルフェニデート」「リスデキサンフェタミン」「アンフェタミン+デキストロアンフェタミン」…覚せい剤類似物質
・メチルフェニデートは2000年代に「リタリン騒動」と呼ばれるその依存性が問題になり、現在の日本ではメチルフェニデートとリスデキサンフェタミンの処方は、ADHD適正流通管理システムで厳しく制限されている。
・メチルフェニデートは当初「夢の薬」ともてはやされたが、長期効果は持続せず、身長の伸びが抑制されることが報告されている。
・ADHD治療薬は何かを始めるときのモチベーションを高めるものの、複雑な問題を解決するために必要な能力の質は低下させる可能性がある。短期的にはやる気がみなぎるものの、薬によって知力が向上するわけではない。
・メチルフェニデートを服用すれば、授業態度はすぐによくなるものの、学習能力の向上にはつながらなかったという報告がある。
・アンフェタミンに関する報告ではあるが、1カ月間の使用で、精神病(psychosis)や躁病(mania)の発症率が高まるとされている。
・アトモキセチンとグアンファシンの依存性は、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、アンフェタミン+デキストロアンフェタミンよりもはるかに少ない。短期的な副作用もほとんど見られない。
・ADHD患者が無治療でいれば、社会生活が困難になることもある。患者の10.8%では気分障害が持続し、10歳代での薬物乱用などが認められる。易怒型が目立つタイプの場合は、行動・情緒面の障害(中退、犯罪、早期死亡など)の発生リスクが、他のタイプや健常者の2倍になるとする報告もある。
■ ADHD治療薬は本当に「夢の薬」なのか
谷口 恭(谷口医院)(m3.com:2026/03/11)
(m3.com:2026/03/11)より一部抜粋(下線は私が引きました)
・・・ADHDの場合は、診察時間が極端に短くても患者は文句を言ったりしない。中には、「薬さえ出してくれればそれでいい」と断言する患者もいて、驚かされる。その理由は、薬に対する満足度が極めて高いからだ。特に患者が小児の場合は、患者自身よりも保護者の満足度が高い。・・・
ADHD治療薬処方の実態
しかし、ADHD治療薬は本当にそんなに高い効果が期待できるのだろうか。そして、長期で使用することに問題はないのだろうか。まずは、ADHD治療薬の種類について整理してみよう。
日本で高頻度に処方されるのはアトモキセチンとグアンファシンだ。前者はノルアドレナリンの再取り込み阻害によって脳内のノルアドレナリン濃度を上昇させ、後者はノルアドレナリン受容体の一部を刺激することでシグナル伝達を増強するとされている。
他方、海外、特に米国や英国ではアトモキセチンやグアンファシンの処方は少なく、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、アンフェタミン+デキストロアンフェタミンが大半を占めると聞く。・・・
メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、アンフェタミン+デキストロアンフェタミンは「覚醒剤類似物質」というより、ほとんど覚醒剤そのものではないかという印象を僕は持っている。アンフェタミン+デキストロアンフェタミンは日本では未発売だが、名称にそのまま「アンフェタミン」が入っており、リスデキサンフェタミンは体内に吸収されてアンフェタミンに変わるプロドラッグだ。
メチルフェニデートについては、2000年代には「リタリン騒動」などと呼ばれる社会問題となった。繰り返し逮捕されたことでも有名な、新宿の「東京クリニック」を開業していた医師は、報道によると、2007年の1年間だけでなんと約102万錠ものリタリンを処方し、多数の依存症患者をつくりだしたと言われている(外部リンク:週刊女性PRIME 2022/4/4)。そういう経緯もあり、現在の日本ではメチルフェニデートとリスデキサンフェタミンの処方は、ADHD適正流通管理システムで厳しく制限されている。これら2剤は同システムに登録した医師(特定の学会に所属する専門医など複数の登録基準あり)しか処方できず、処方する患者の情報も同システムに登録する必要がある。また、調剤できるのも登録薬局のみで、「登録調剤責任者」が調剤しなければならない。
リタリン騒動の弊害は非常に大きかったが、一方で騒ぎになったからこそ、それ以降の“覚醒剤”の乱発に歯止めがかかったと言えなくもない。もしも、いまだにADHD治療薬を簡単に“安売り”できる状態が続いていたら、大変な事態になっていたに違いない。しかし、再び、この“安売り”がはびこり始めているかもしれない。当院の患者で言えば、2010年代から2020年代中頃までは、メンタルクリニックでメチルフェニデートやリスデキサンフェタミンを処方されているケースは少数であったものの、最近はメチルフェニデートのうち、コンサータが処方されている事例が目立つ。
★ 前回は、英国のADHDについて取り上げたので、今回は米国を見てみよう。New York Timesによると、米国でのADHDの患者数は1990年には100万人未満だったものの、1993年には200万人を超えた(外部リンク:The New York Times 2025/4/13)。これは、子どもの人口の約3%に相当する人数だ。その後も患者数は増加し続け、1997年には5.5%、2000年には6.6%、さらに2024年には11.4%へと急増した。14歳男子では21%、17歳男子では23%にも上る。ADHDと診断される成人も増え、2012年には、30歳代の米国人へのADHD治療薬の処方箋が500万枚、2022年には3倍以上の1800万枚に達しているそうだ。
まるで「夢の薬」? しかし長期的な効果は…
ADHD治療薬を処方された子どもの親たちは、たった1回服用しただけで、集中して勉強し始める子どもの姿を見て「夢の薬」だと勘違いしたに違いない。研究結果もその有効性を示している。1999年に発表された、ADHDと診断された小児579人を対象とした研究では、メチルフェニデートを14カ月間内服した子どもたちは、行動療法、地域ケアを受けた子どもたちよりも症状が著しく軽減したことが示された。
この研究はかなり有名で、しばしば引き合いに出されるが、この「続き」は意外に知られていない。その後の経過を追跡した報告によると、14カ月間で症状が改善したものの、その後、メチルフェニデート使用群の優位性は完全になくなった。さらに、メチルフェニデート使用群では身長が伸びず、対照群と比べて平均で1.29cmも低かったのだ。
・・・まず、ADHD治療薬は何かを始めるときのモチベーションを高めるものの、複雑な問題を解決するために必要な能力の質は低下させる可能性を示唆する報告がある。また、治療サマーキャンプに参加した7~12歳の小児173人(男子77%、ヒスパニック系86%)を対象とした研究では、メチルフェニデートを服用すれば、授業態度はすぐによくなるものの、学習能力の向上にはつながらなかった。ADHD治療薬を使用した患者へのインタビューを重ねた研究では、短期的にはやる気がみなぎるものの、薬によって知力が向上するわけではないことが示されている。
これらをまとめると、ADHD治療薬を服用すると、「直後から意欲がわき、集中力が高まるものの、長期的な学習効果が改善するわけではなく、小児の場合は身長が伸びない」ということになる。さらに、当然のごとくリスクもある。アンフェタミンに関する報告ではあるが、1カ月間の使用で、精神病(psychosis)や躁病(mania)の発症率が高まるとされている(調整オッズ比:2.68、95%信頼区間:1.90-3.77)。高用量の場合は、5.28倍まで上昇するそうだ。
もっとも、上記の研究の多くはメチルフェニデートを対象としており、日本でよく処方されるアトモキセチンやグアンファシンに関する報告ではない。実際、当院の経験から見ても、少なくともアトモキセチンとグアンファシンの依存性は、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、アンフェタミン+デキストロアンフェタミンよりもはるかに少ない。短期的な副作用もほとんど見られない。だが、これらもアドレナリンやノルアドレナリンに関与する向精神薬なのだから、長期的な安全性や有効性については十分に注意すべきだろう。少なくとも、安易な処方は慎むべきだ。
必要性を見極めた上で診断・処方を
とはいえ、ADHD治療薬で救われている小児や成人がいるのは間違いない。無治療でいれば、社会生活が困難になることもあるからだ。ADHD患者の10.8%では、気分障害が持続し、10歳代での薬物乱用などが認められるとされている。易怒型が目立つタイプの場合は、行動・情緒面の障害(中退、犯罪、早期死亡など)の発生リスクが、他のタイプや健常者の2倍になるとする報告もある(再解析の結果、心臓の心理生理学所見の一部に重大な変更が生じたとのことで、論文の撤回および再掲載がなされているが、全体的な結論は変わらないとされている)。
ADHD治療薬が一部の患者(特に10歳代)にとっては不可欠である一方、環境が変わったら症状がなくなったり、成人してから「自分はADHDだったわけではなく、単に周囲の環境が子ども時代の自分と合っていなかっただけなのでは」と振り返ったりする患者が多いことも特筆に値する。
さらに、ADHDという「診断」が不幸を招くことがあるのも事実だ。日本でも海外でも、よく「ADHDの診断をつけてもらって、苦しみから解放された」という話があるが、必ずしもそうなるとは限らない。「診断によってスティグマ化のリスクが高まる」ことを示したメタアナリシスがある。歪んだアイデンティティがつくられ、さらに孤立感や排斥感、羞恥心などが生まれる可能性もあるのだ。以前は、「ADHDは脳の器質的疾患だ」とする説があったが、前述のNew York Timesによると、そういったことを主張していた研究者の中には、その結論が「適切ではなかった」と受け止めている人もいるらしい。遺伝性についても、特定の遺伝子は見つからなかったと報告されている。
たとえ、現在の診断基準でADHDの確定診断ができるのだとしても、必要性が高くないケースでは、ADHD治療薬は使わない方がいいのではないだろうか。もし処方するのなら、少なくとも本稿で述べたようなリスクや依存性については、あらかじめ患者に理解してもらわねばならない。精神科医からはお叱りを受けるだろうが、メンタルクリニックで十分な説明もないままADHD治療薬を処方され、それを疑問に感じている患者に対し、僕は「飲む必要はない」と伝えていることをここに告白しておこう。