昨年、町の3歳児検診に参加した際、神経発達症と診断された児と相談を受けているグレーゾーンの児が1/3もいて驚かされました。
「こころの科学」という雑誌でも「発達障害が多すぎる」という特集が組まれていましたね。
実際に増えてはいる実感はありますが、過剰診断の要素はないのかな、と素朴な疑問が生まれます。
似たように感じている医師の書いた記事が目に留まりました。
読んでみると、ADHDを取り巻く環境がビジネス化し、それで金儲けしようとする輩が徘徊・暗躍する実態が垣間見えてきました。
人の弱みに付け込むビジネスは、時代を超えて手を変え品を変え、暗躍します。特に病気関係では多いですね。
■ ADHDビジネスが国家を脅かす
メンタルクリニックで注意欠如・多動症(ADHD)が過剰診断されているのではないか」。僕が初めてそう感じたのは、まだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する前の2010年代後半だった。現在は否定的な意見も増えているようだが、当時はまだ「ADHDは遺伝性疾患」、さらには「脳の器質的疾患」とさえ言われていた。ゆえに安易に診断すべきではなく、少なくとも幼少期のエピソードの聞き取りや保護者からの問診も必須で、一度や二度の診察で確定診断がつくわけではないと聞いていた。
2010年代の中頃までは、当院の患者から「(自身が、あるいは子どもが)ADHDの疑いがあると言われているが、どこを受診していいか分からない」という相談を多数受けていた。ところが、いつの間にかそのような相談ははたとなくなり、ほとんどのケースが専門科で治療がされていると見受けられる状態になった。また、以前は「受診したメンタルクリニックでADHDに詳しい別の精神科を紹介してもらった」という声をよく聞いていたが、そのような話もなくなった。僕が見てきた範囲で言えば、ADHDの専門医による診療は見事というほかなく、ADHD治療薬の適切な増量、変更、時には併用により、症状が、そして何よりも患者満足度が劇的に向上するのだ。不登校や引きこもりが治り、勉学や仕事がうまくいくようになったという成功例をよく耳にしていた。
ところが最近は、以前とは打って変わって、「メンタルクリニックでADHDと診断され、薬を処方されたが、飲まなければならないのか」という疑問を寄せる患者が急増している。彼(女)らによれば、時間のかかる診察はなく、その反対に、例えば1分程度でできるアンケートのようなものを書いただけで診断がついて薬が処方されるらしい。トータルの診察時間も5分程度だとか。もちろん適切な診療を提供する専門医の存在は理解しているが、このような診察で本当に確定診断がつけられるのだろうか。
オンラインのみ、即日診断、1分で終わる診察
僕の「ADHD過剰診断疑惑」がいよいよ強くなったのは2年ほど前だ。その理由の一つは、「初診から今までオンライン診療しか受けていない」という患者が急増していることだ。僕も総合診療医として精神症状を診ることがあるが、可能な限り、オンライン診療は避けてもらうようにしている。これは私見だが、精神症状の問診では、患者の放つ言葉そのものよりも、声のトーンや抑揚、吐息、話の“間”、近付かなければ分からない目線の微妙な動きなどを参考にしなければならない。未熟な総合診療医とは異なり、専門医ならばオンラインだけで正確な診断が可能なのだろうか。
さらに驚かされるのは、診断書すらオンラインで即日発行可能なクリニックが増えていて、しかもそれを宣伝文句にしているところまであることだ。ADHDが関与しているかどうかにかかわらず、精神に不調を来して出勤できなくなったとき、職場を休むために、このようなクリニックを利用して、たった一度のオンライン診療で診断書を発行してもらう人々が急増しているという話を複数の患者から聞いた。
また、「オンラインのみの診療」以外にも、ADHDの診察で気になることがある。当院の患者によると、対面式であっても診察時間は極めて短く、「大抵1分以内で終わる」という。さらに、「担当する医師が毎回代わる」のも最近の特徴だ。通常、どのような疾患であろうが、前医から引き継ぐのであれば、どれだけ詳細にわたる申し送りを受けていたとしても、患者自身に確認せねばならないことは数多くあるはずだ。その作業だけでも5~10分は軽くかかるだろう。さらに、「希望すれば、大体どんな薬でも出してくれる」という情報も耳にする。臨床医なら「薬はいつも最小限」にするのが基本であって、精神科領域の薬剤では、ことさらに安易な処方は慎むべきではなかったか。
増加するADHD患者を狙った英国のビジネス
適正かどうかは別にして、ADHDの診断がついている患者数が急増しているのは間違いない。JAMA Network Open誌に2022年に掲載された日本の調査によると、ADHDの日本での年間発生率は、2010~2019年度の間に、0~6歳で2.7倍、7~19歳で2.5倍、20歳以上で21.1倍に増加している1)。僕がADHDの過剰診断疑惑を強めたのは2年ほど前だから、同様の調査が現在実施されれば、さらに大きな数字の上昇を確認できるに違いない。
では、海外ではどうか。海外メディアの記事や論文を読む限り、ほとんどの先進国ではADHDが急増し、財政難に直面しているようだ。The Timesの記事(外部リンク:The Times 2026/2/6)を参考に英国の現状を取り上げてみよう。
英国の国民保健サービス(NHS)のデータによると、イングランドでは約82万人がADHDと診断され、うち29万7000人が治療薬を服用している。10年前は8万1000人で、約3.7倍の増加だ。NHSは「依然診断に至っていない事例が多く、イングランドでは未診断例も含めると250万人がADHDを患っている」と考えていて、実際、50万人以上がADHD検査のウェイティングリストに載っているという。
基本的にイングランドを含む英国は、日本のような自由開業制ではなく、保険医が新たにクリニックを立ち上げ、新規参入することはほとんどできない。患者候補が急増しても、既存のクリニックではその需要に対応できず、かといってクリニックを容易に増やすのも難しいのだ。では、英国政府はどうしたか。苦肉の策として「ADHD専門の民間クリニック」に拠出することを決めたのだ。「Right to Choose」という制度を立ち上げ、患者が民間クリニックでADHD検査を受ける費用をNHSが負担することとした(同制度を利用する権利があるのはイングランドの患者のみ)。
患者が増えれば増えるほど民間クリニックの利益は増加し、そして需要はうなるほどある。これに目を付けたのがプライベート・エクイティ、言ってしまえば“金もうけ主義の投資会社”だ(投資会社が金もうけを目的にするのは当然だが)。金もうけのプロであるプライベート・エクイティが関与して何が起こったか。巧みなマーケティングで患者という名の“顧客”を集め、「Right to Choose」を利用(悪用?)するわけだ。クリニックの“診断”さえあれば、いくらでも政府からカネを引っ張れて、クリニックも投資会社ももうかって仕方がないというからくりだ。
「Right to Choose」が続く限り、民間クリニックも投資会社ももうかるのは当然だ。待機患者だけで50万人、未診断例も入れればイングランドだけで250万人の患者が存在するからだ。プライベート・エクイティがADHDにビジネスチャンスを見出したのもうなずける。同紙によれば、NHSは2025年、民間のADHDクリニックに1億2800万ポンドを支出したと推定され、2年前の3600万ポンドから大幅に増加している。同紙の試算では、プライベート・エクイティとタッグを組んだ3つの民間クリニックは、最新の決算報告で合計3150万ポンドもの年間粗利益を上げている。
英国政府も日本の一介の総合診療医に心配されたくないだろうが、何の手も打たずにこのままプライベート・エクイティと民間クリニックを野放しにすれば、国家財政が危機的状況になるのではないか。ただでさえ、同国では医療財政が困難な状態に陥り、保険医に十分な給与が払えず、若手医師によるストライキが実施されたほどなのだ。