しばらく前に夜尿症のことを調べて以下のようにまとめました。
▢ 夜尿症のお話
▢ 夜尿症の生活改善
調べ尽くした感がありましたが、最後に「神経発達症に合併する場合は治りにくい」という問題にたどり着きました。
私は小児科医でサブスペシャリティは小児アレルギーですので、神経発達症の診療は専門外です。
一方で、小児科には珍しく漢方薬を積極的に診療に導入しており、外来患者さんの5割に漢方薬を処方しています。
すると、子どものココロのトラブルの相談が増え、かんしゃくとか感情・情緒の問題(緊張・不安)にも漢方薬を処方するようになり、一定の手応えを感じています。
先日、かんしゃくに対して漢方薬を処方した幼児、かんしゃくがほぼ無くなり、今まで(ハサミが怖くて)床屋に行けず、自宅でも大変な思いをして髪の毛を切っていたのが、突然「床屋に行きたい」と言いだし、終わるまでの30分間椅子に座っていられたとうれしい報告をしてくれました。
「がんばったね。もしかして、床屋に行きたかったの?」
と声をかけると「うん!」とドヤ顔で答えてくれました。
床屋へ行ってみたいけど、ハサミが怖くて行けなかった・・・という彼の葛藤が見て取れました。
「まわりが困っている神経発達症児は、本人が一番困っている」とテキストに書いてある通りですね。
前置きが長くなりました。
前項目で「神経発達症のトイレトレーニング」について調べて書き込んでいるとき、「なんだか夜尿症の生活指導と似ているところがあるなあ」と感じました。
もしかしたら、専門外の私でも神経発達症の夜尿症治療ができるかもしれない、と思い、調べてみました。
まず、学会によるガイドラインを覗いてみました。ポイントを要約・抜粋します。
夜尿に神経発達症が併存する場合、トイレトレーニングと年齢層が異なるため、原疾患に対する薬物療法が奏功することがあるようです。
ADHD治療薬は6歳以上に認可されており、一部は専門家のみ処方可能というルールがあります(私にはその資格がありません)。
ASDに有効な薬物は存在しませんが、併存する睡眠障害に対する投薬治療で睡眠が改善し、それが夜尿症に好影響することが期待できるようです。
生活指導に関しては具体的な記述はありませんが、トイレトレーニング同様、その子にとって何がハードルになっているのかを作業療法士さん等が分析・サポートできるとよい方向に進むのでは、と感じました。
結局、夜尿症の治療対象は小学生以上となるため、神経発達症に対する薬物療法ができるようになりますが、これは専門家領域のため、私は担当できません。よって、夜尿症の一般治療だけなら担当できる、というレベルにとどまることが判明しました。
CQ11:ADHDを併存する夜尿症に対して、ADHDの治療は推奨されるか?
A. 併存するADHD自体の治療を夜尿症の治療と並行して行うことを提案する。
(解説)
・ADHD児では夜尿の合併が多い。
(例)6歳:ADHD20.9%、対照群7.8%、10〜11歳:ADHD3.9%、対照群2.9%
・・・ドパミンとノルアドレナリンの再取り込み阻害により脳内シナプス間隙のドパミン、ノルアドレナリン量を増やすことによりADHD症状が改善する。
・・・夜尿症合併ADHD児にこの薬を投与し有効だったという報告が複数ある、一方で多動・衝動性優勢型と混合型では無効だったという報告もある。
②アトモキセチン(ストラテラ®):非中枢神経刺激薬
・・・選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬で、おもにノルアドレナリンを調節してADHDに効果が得られる。
・・・夜尿症を併存するADHDに対する翻訳剤の使用報告は数件しかない。
③グアンファシン(インチュニブ®)
・・・選択的α2Aアドレナリン受容体に作用し、ノルアドレナリンの調節不全を改善する。
・・・本剤の夜尿症治療に関する報告はない。
④リスデキサンフェタミン(ビバンセ®):中枢神経刺激薬
・・・ノルアドレナリンとドパミンの再取り込み阻害に加えて、これらの分泌を促進する。アンフェタミンのプロドラッグ。
・・・夜尿症に対する本剤の治療報告はない。
(問題点)
・夜尿症治療では生活指導の徹底と治療に対するアドヒアランスが重要であるが、ADHD併存夜尿症児ではそれが十分期待できない。
・中間尿失禁のある小児に定時排尿を指導した場合、アドヒアランスがADHDでは48%不良、対照群では14%にとどまった。
・アラーム療法を指導した場合、アドヒアランスがADHD児では38%が不良、対照群では22%にとどまった。
・重度のADHDを有する夜尿症・昼間尿失禁児では、ADHD児治療を優先することにより、排尿障害の治療へのアドヒアランス向上が期待できる。
▶ 発達障害のある尿失禁患者へのアプローチ
・神経発達症で夜尿の併存が問題となるのが、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、知的発達症の3つである。
I.ADHD:上述
II.ASD
・ASDの有病率は1.2%、約半数で知的障害を伴う。本症の9割に夜尿症がある。
III.知的発達症
・IQ(知能指数)<70が基準で、原因疾患は様々。
・昼間尿失禁、便失禁の併存もみられ、IQが低いほど重症である。
・各排泄障害と行動・情緒障害の併存;
夜尿症:分離不安障害8.0%、社会不安障害7.0%、恐怖症性不安障害14.1%、全般性不安障害10.5%、うつ病14.2%、反抗挑戦性障害8.8%、後遺障害8.5%、ADHD17.6%
昼間尿失禁:ADHD児24.8%、反抗挑戦性障害10.9%、後遺障害11.8%
便失禁:分離不安障害4.3%、恐怖症性不安障害4.3%、全般性不安障害3.4%、ADHD児9.2%、反抗挑戦性障害11.9%
▶ 神経発達症と夜尿症の合併:一時的併存と二次的併存がある
(一次的併存)もともと両者が合併している場合
→ 中枢神経系の未熟性による排尿機能の未熟性と発達特性に応じた指導
→ 患者の独特な認知やキャラクターを理解して対応していく、排尿環境や学校環境などの不安を除去する環境整備が重要。
→ 就床への抵抗、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、朝の覚醒困難などの睡眠障害が高率に見られ、これが夜尿症の併存に関与している可能性があり、メラトニン、ラメルテオンなどによる薬物療法が期待される。
(二次的併存)神経発達症の二次的な不適応症状として夜尿症が発症もしくは悪化している場合
→ 上記に加えて二次的症状を引き起こした心因に対する心理的ケアが必要になる。
→ 近年薬物療法が確立されてきており、原疾患を治療することで夜尿が一部改善することが期待される。
もう一つ、手元の書籍「夜尿症診療リアルメソッド」(西崎直人著、中外医薬社、2022年発行)に下記項目がありましたので、要約・抜粋します。
夜尿症治療抵抗性の場合に神経発達症の併存を疑い、小児神経専門医へつなぐ、というスタンスのようです。
▶ 夜尿症のある児を小児神経専門医へ紹介するタイミング
・積極的治療(デスモプレシンやアラーム療法)を6ヶ月以上行っても無効(夜尿日数が50%以上減少しない)例で、抗コリン薬/三環系抗うつ薬を1ヶ月併用しても無効の場合
・年齢が進んでもよくならない治療抵抗例で、とくに昼間尿失禁も改善しない非単一症候性夜尿症の場合は神経発達症を疑う。
・神経発達症児をもつ保護者はしばしば「育てにくさ」を感じており、言うことを聞けない我が子に対してイライラやあきらめを感じている場合が少なくない。
・神経発達症児では治療アドヒアランスが低下し、受診を無断キャンセルしたり、退薬したり、トラブルが発生しがち。
・夜尿症があることは、不注意型ADHDを発見するためのマーカーになるという報告がある。
・情緒面や落ち着きの面が改善しないことには、生活指導・行動療法に対してもうまく取り組めず、結果として治療効果が表れにくくなる。
▶ 夜尿症を併存する神経発達症の問題点
(患者本人の問題)
・発達特性による要因
✓ 水分制限を遵守できない
✓ 遊びに夢中になると排尿を後回しにする
✓ 雑な排尿(途中で排尿をやめてしまう、完全排尿しない)
✓ 生活指導・行動療法を継続でない(飽きっぽい)
✓ 強いこだわり、感覚過敏(薬の味に敏感)
・夜尿・尿失禁があることを恥ずかしいことと認識できない
・湿った下着を着けていることに抵抗感を感じにくい(感覚鈍麻)
・睡眠障害
(保護者の問題)
・子育ての困難さを感じている
・親子関係の悪化
・神経発達症のせいだ、とあきらめている
・・・上記より治療アドヒアランスの低下につながる
「治療アドヒアランスが低下しがち」という文言から、家庭内での親子ストレスが垣間見えてきます。
情緒面の安定〜ストレス対策には漢方薬の柴胡剤・・・と私は発想するため、相談を受けたら処方しようと考えています。
と思ったら、夜尿症専門医でも柴胡剤の一つである抑肝散を処方しているという記事が目に留まりました。
なるほど、なるほど。
<参考>
・夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)
・「夜尿症診療リアルメソッド」(西崎直人著、中外医薬社、2022年発行)
・小児の難治性夜尿症への対応(大友義之、順天堂大学小児科、日本医事新報社)